外貨建て投資における為替リスクとは?失敗しない為に知っておきたい為替変動の要因と為替ヘッジのメリット・デメリット

円安の今、外貨建て資産への投資への注目度が高まっている。

しかし為替リスクが気になって、なかなか一歩を踏み出せないという人も多いのではないだろうか。

結論から申し上げると、外貨建て資産への投資では、為替リスクは避けられない。

しかし、為替変動の要因やリスク回避のポイントを押さえておけば、ダメージを最小限に抑えたり、むしろプラスに転換させたりすることも可能である。

今回は外貨建て投資における為替リスクについて以下のポイントで解説する。

-為替リスクとは何か?

-どのような要因で為替変動するのか?

-リスクを回避する方法はどんなものがあるのか?

■為替リスクとは?

為替リスクとは、為替相場の変動により、保有する外貨建て資産の円評価が変動することを言う。

海外の株式や債券等に投資するには、基本的にはその国の通貨で投資することになり、米国株式への投資なら米ドルでの投資となる。

しかし、日本で投資する投資家は、投資する際や換金する際の金額を日本円に換算するため、為替の影響を受けることになるのだ。

つまり、たとえ株式や債券の価格が変わらなくても、為替レートの変動によって日本円に換算したときの価値が変わる。

例えば、1ドル=140円のときに米国株を購入し、その後円安で1ドル=150円になれば、ドル資産の価値が上がるので、円換算での価値は増える。

一方、円高で1ドル=130円になれば、ドル資産の価値が下がるので、円換算では損することになる。

つまり、為替の動きによって、投資の損益が左右されてしまうのが為替リスクだ。

流行のオルカン(全世界株式)を例に挙げてみよう。

オルカンは主に米ドル建ての資産に投資しているため、円高になると評価額が下がる可能性がある。つまり為替リスクがあるのだ。※

逆に、オルカンの価格はその原株価指数(MSCI ACWI)にドル円レートを掛け合わせた形で算出されるので、円安になると円換算の基準価額が上がる。

更に、円安のときは株高になる傾向があり、オルカンのような外貨建て資産にとっては円安で為替差益がプラスに働くので、株高と相まってリターンが加速する傾向がある。

つまり、為替リスクはあるものの、為替の動きによるメリットも大きいと言える。

※例外として、株価の上昇が為替のマイナスを打ち消すこともある。円高になっても株価がそれ以上に上がれば、価格が下がらない。

たとえば、2023年末から2024年初めにかけて、ドル円が少し円高に動いたが、オルカンの価格はその原株価指数(MSCI ACWI)がそれ以上に上昇したことで、オルカンの価格はむしろ上がった。

■為替が変動する主な要因

為替相場は、基本的に需給バランスで決まる。

国内への資金流入で為替相場は上がり、国外への資金流出で相場は下落する。

主な変動要因は以下の5つだ。

・金利差

・経済指標

・実需

・投機筋

・国際情勢・地政学リスク

それぞれについて解説していく。

❶金利差

一般的に、高金利の通貨で運用した方が多くの金利収入を見込める為、金利の高い国や地域の為替相場は上昇し、金利の低い国や地域は下落する傾向にある。

例えば、アメリカの政策金利が日本より高ければ、より利回りの良いドル建て資産を求めて資金がアメリカに流れ、円を売りドルを買うことで円安・ドル高になる可能性がある。

逆に、日米の金利差が縮まれば、円高方向に進む可能性がある。

したがって、各国中央銀行(FRBや日銀等)や政府の動きや発言は、為替変動の材料となり得る。

❷経済指標

各国の経済指標示す経済状況も為替に影響する。

特に、消費者物価指数(CPI)や労働市場を示す雇用統計は中央銀行の「金融政策」に直結するため、市場の注目度が高い指標と言える。

例えば、米国の雇用統計が好調であると、ドル高の要因になることが多い。

雇用統計が市場予想を上回ると、「FRB(米連邦準備制度理事会)はすぐに利下げしないだろう」という見方が広がる。これにより、ドルの金利が高止まりするとの期待が強まり、ドル買いが進む可能性がある。

また、雇用統計が強いと、米国経済の底堅さが意識され、リスク回避の動きが後退して、資金がドルに集まりやすくなるという面もある。

❸実需

経済活動に伴う需給取引を背景にして為替が動くこともある。

貿易収支などの経常収支や投資などの資本取引収支における国内外への資金流出入の変化が為替相場に影響を与える。

◉経常収支(貿易収支など)  

輸出が輸入を上回れば、外国からの支払いが増えて円買いが進み、円高要因になる。

逆に輸入超過なら円売りが進み、円安要因となる。

例えば昨今、日本はクラウドサービスやサブスクリプション型のデジタルサービス(Netflix、AWS、iPhoneのクラウドなど)を海外企業から大量に購入している。これらの支払いは外貨建てなので、円を売ってドルなどを買う動きが強まっている。

このようなデジタル赤字の拡大による外貨流出が円安圧力を高める一因になっているという指摘がある。

◉資本収支(投資など)  

日本企業や投資家が海外に投資すれば円を売って外貨を買うため、円安要因になる。

逆に海外から日本への投資が増えれば円高要因になる。

新NISAにおけるオルカンなどの外貨建て資産への投資増加を受けた円売り需要で、対外証券投資は円安要因となっている。

❹投機筋

実需を伴わない需給として、為替市場の市場参加者の取引の中には、短期的な値動きを狙う投機的な取引が多数存在する。また、過度な円安を対応するために政府などによる為替介入も為替変動要因となる。

◉ヘッジファンドやFX取引による為替取引

投機筋の為替ポジションの動向を確認するには、「IMM(国際通貨市場)投機筋ポジションデータ」がよく使われる。このデータは、CFTC(米国商品先物取引委員会)が毎週金曜日に発表する「COTレポート(Commitments of Traders Report)」に基づいており、投機筋のロングポジション(買い)やショートポジション(売り)を把握できる。

◉中央銀行による為替介入

政府・日本銀行による為替介入は、急激な市場の流れを変える重要な手段として使われてきた。

特に最近の事例では、以下のような動きがあった。

2024年4月~7月の介入

4月29日・5月1日

約9.8兆円の円買い介入。

160円台を突破したドル円相場を抑える目的

7月11日・12日

約5.5兆円の円買い介入。

米消費者物価指数(CPI)の下振れに合わせて実施され、ドル円は161円から157円台へ急落

中でも2024年7月の介入は、米インフレ指標の発表直後に行われ、トレンド転換のきっかけとなった。

❺国際情勢・地政学リスク

政権交代や経済制裁といった国際的な政治イベントも、通貨の信用リスクに影響し、為替相場を不安定にする。

また、紛争や戦争・テロ・政情不安などが起きた際、安全資産とされるスイスフランや円が買われ、「有事の円高」が起きることがある。しかし、近年の中東情勢の緊迫化では円安が進む動きもあり、有事の円買いは弱くなっている一面もある。

■為替ヘッジの活用は為替リスクの回避に効果的

為替リスクを回避する方法に為替ヘッジの活用がある。

為替ヘッジとは、円高・円安などの為替変動による円ベースでの損益を回避する方法。

ヘッジ(hedge)は直訳すると「避ける」となるが、リスクを回避・軽減するという意味で使われる。

為替ヘッジを行うことで為替変動リスクを抑えることが可能となるのだ。

多くの投資信託は、海外の株式や債券などの外国資産に投資をしている。

これらのなかには、為替変動によって円ベースでの価値が減少することを回避するために、為替ヘッジありと為替ヘッジなしを選択できる場合がある。

為替ヘッジのメリットとデメリットは下記の通り。

◉メリット

 ☑円高による為替差損を回避できる

◉デメリット

 ☑円安による為替差益は取れない

 ☑為替ヘッジの活用には、ヘッジコストが発生する

 コストは一般的に2つの国・地域の3ヵ月分の短期国債利回り差に相当する。

 ヘッジコストは、基本的に2つの国・地域間の金利差が大きい程高く、小さい程低くなる。

為替ヘッジありでは、為替リスクを回避できる反面、ヘッジコストが信託財産から控除されるので、運用実績のマイナス要因になることは認識しておく必要がある。

■まとめ

為替ヘッジの選択に際しては、下記を考慮しなければならない。

・為替リスクを許容できるかどうか?

・為替相場が円高・円安どちらに動くか?

・ヘッジコストの水準がどの程度か?

例えば私は、個人として米国債20年超ETFを為替ヘッジありで保有している。

現在のような、日米両国間の短期金利が開いている状態では、コストデメリットはあると思うが、

為替リスクを気にしないで、定期的に年4回分配金(不労所得)が入ってくるので悪くはないかと思っている。私がエントリーした時点では、円安が行き過ぎた感があったのでヘッジを掛けた運用になった。

2024年以降、米国での利下げへの転換と日本の緩やかな利上げを背景とした金利差縮小から、コストは下がる傾向にあるかと思う。2025年8月のジャクソンホールでのパウエル議長の発言などでも利下げ期待が高まったかも知れない。

ただし、将来的に金利や為替がどう動くかは誰にもわからない。

為替リスクを受け入れて、中長期な視点でのパフォーマンスを期待する運用も当然ありだと思う。

為替ヘッジの選択や外貨建て資産への投資の可否については個人の判断で、良し悪しはケースバイケースだ。

著者 上岡健司

株式会社ユリウス 代表取締役 

IT企業の会社員として30年勤務した後、早期退職を利用してサラリーマンを卒業。会社員時代には、アジア地域3ヵ国に10年以上駐在。在職中にロバートキヨサキ著『金持ち父さん貧乏父さん』を読み感銘を受ける。経済的自由の大切さに目覚め、不動産投資を開始し、約10年掛けて経済的自由を獲得。不動産投資で経済的自由を獲得後、資産運用の一つとして証券投資にも取り組み資産運用の幅を広げている。在職中から税制面など、より効率的な資産運用を目的に資産管理会社を設立。このサイトでは、自身のFIRE実践者としての経験に基づいた情報を発信している。

AFP(日本ファイナンシャルプランナー協会認定)資格取得、宅地建物取引士資格合格

著書

『令和のサラリーマンの為のFIREのススメ』(Amazon電子書籍)

『FIRE Recommendation for Office Employee』(Amazon Kindle)