「微笑みの国」はもう安くない?久しぶりのバンコクで痛感した資本主義のリアル(後編) (副題:変わらない渋滞、変わる物価、そして資産運用の必要性)
懐かしきスクンビット・ソイの渋滞
今回のバンコク滞在では、あえてスクンビット通りの「ソイ(大通りから分岐する脇道)」を縫うように移動した。日本人が多く居住するソイ49からソイ23の間のエリアだ。
車窓からこの景色を眺めるのは、駐在時代以来、本当に久しぶりのことだった。当時は接待の開始時間に遅れまいと、動かない車内で焦り、運転手を急かしていた記憶が鮮明に蘇る。スクンビットの大通りは煌々と明るいが、一歩ソイに入ると街灯がまばらになり、独特の薄暗さが漂う。
金曜の夜ということもあり、車は相変わらずピタッと止まって動かない。「大通りの渋滞を避けて抜け道に入ったつもりが、そこも全く機能していない」という、タイではお決まりのオチに、思わず苦笑してしまった。「あぁ、この理不尽さこそがバンコクだ」と、妙に懐かしくなる。

屋台で思い知る「プリックナンプラー」の魔力
昼食は、路地の屋台でカオパット(タイ風チャーハン)を注文した。 値段は65バーツ。水が5バーツ。合計70バーツ。今のバンコクではこれが「普通」の価格設定なのだろう。
テーブルに置かれた使い古された容器から、お馴染みの「プリックナンプラー(魚醤に刻み唐辛子を入った調味料)」を回しかける。パラパラの米にナンプラーの塩気と唐辛子の刺激が絡み、脳を直撃する。これがまた、驚くほど美味いのだ。
私はこの調味料が大好きで、ついかけ過ぎてしまう。日本のタイ料理店では、このプリックナンプラーが置いてなかったり、ひどい時には「別料金です」などと無粋なことを言い出す店もあり、がっかりさせられる。
屋台の喧騒と蒸し暑さの中で、私はまるでドラマ『孤独のグルメ』の井之頭五郎に成りきった気分で、夢中でカオパットを平らげた。胃袋がバンコクの記憶を完全に取り戻した瞬間だった。
変わらぬ治安、変わらぬ「微笑み」、そして「ファラン」たち
街を歩いていて改めて感じるのは、その圧倒的な治安の良さだ。20年前も今も、身の危険を感じることは一切ない。 そして「微笑みの国」と称されるタイ人の人柄も健在だ。手を合わせて「サワディカップ(こんにちは)」と挨拶を交わすと、返ってくる温かな微笑み。街全体に流れる、どこかゆったりとした時間。この居心地の良さこそが、日本人がタイに惹きつけられる最大の理由だろう。
また、バンコクの都会的なエリアには、相変わらず「ファラン(欧米人)」が多い。気候、物価、文化。彼らにとってもタイは、人生を謳歌するための魅力的な選択肢であり続けているのだ。
住む場所としてのバンコク:拡大する居住エリアと「異常な日本」
かつて日本人の居住エリアといえば、ソイ55(トンロー)あたりが東の限界だった。しかし今やBTS(高架鉄道)が延伸し、かつての終点だったオンヌットのさらに先まで駐在員が住んでいるという。
アソーク近辺のような都心部であれば、家賃は東京と変わらない。しかし、少し中心部から離れれば、東京では考えられない広さの、プール・ジム付きコンドミニアムに快適に住むことができる。私のような寒がりにとって、この温暖な気候は天国だ(室内や電車の冷房が殺人的に効きすぎているという「東南アジアあるある」も健在だが)。
ここで、多くの日本人が懸念する「物価」について触れなければならない。 確かに、円安の影響は甚大だ。
- 昔の昼ごはん: 30バーツ × 約3円 = 90円
- 今の昼ごはん: 60バーツ × 約5円 = 300円
日本円換算で3倍以上。「高くなった」と感じるのは無理もない。しかし、冷静に考えてほしい。私が駐在していたのは約20年前だ。20年経てば、経済成長とともに物価が上がるのは世界的に見れば「当然」のことだ。 むしろ、平成の30年間ずっとデフレが続き、給料も物価も上がらなかった「日本こそが異常」だったのだ。最近ようやく日本もその呪縛から脱却する兆しが見えてきたのは幸いだが、世界との差は歴然としている。

検証:「日本円の預金」で海外逃げ切りは可能か?
かつて、私がバンコクを素晴らしいと思っていた理由は3つあった。
- 都会なのに、物価が安い
- ご飯が安くて美味しい
- 治安が良い
現在の為替レートと日本の物価を基準にすると、1と2のメリットはもはや薄れている。 だが、現地で外貨(バーツ)を稼いで暮らしている限り、為替の変動を過度に気にする必要はない。親日的な国民性を含め、依然として日本人にとって住みやすい国であることは間違いない。
ただし、一点だけ残酷な真実を告げなければならない。 「老後のために貯めた日本円(現金)だけを持って、物価の安い国で逃げ切り生活をする」というモデルは、今後、完全に崩壊するということだ。 日本円の価値が相対的に下がり続け、資金が目減りしていく流れの中で、単なる「貯金」はもはやリスクでしかない。
まとめ:資本主義をハックするための「必須科目」
だからこそ、我々は「資産運用」を覚えなければならない。 日本円の預金だけに依存せず、インカムゲインを生む資産(株や不動産など)を持ち、お金にお金を稼いでもらう仕組みを作ること。これは海外移住者に限った話ではない。日本に住んでいても、21世紀の資本主義社会を生き抜くための「必須科目」なのだ。
バンコクの熱気と渋滞の中で、私は改めて確信した。 自らの投資ドクトリン——「資産の多層構造」を築き、自走する富の泉を作ること——の正しさを。 この国が成長し続ける限り、私もまた、そのエネルギーを資産に変えて走り続ける。
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■著者プロフィール
著者:上岡 健司
AFP(日本ファイナンシャルプランナー協会認定)、宅地建物取引士資格合格
株式会社ユリウス代表取締役中国・タイ・ベトナムなどアジア3カ国で10年以上の企業経営経験を持つ投資家・戦略的メディアオーナー。自社での不動産・金融資産運用を実践しながら、資本主義の構造を活用したライフスタイルを発信中。著書多数。
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